教育業界におけるDXの課題とは?DX推進事例をもとに解決策を模索しよう

2020年4月、政府から発令された緊急事態宣言に伴って、あらゆる分野におけるDX化が加速しました。教育業界も例外ではなく、オンライン授業や各種プログラムの配信などでDXを推進しています。今回はこの教育業界におけるDXについて解説していきます。

教育業界のDX状況を知って意識を高めるためにも、日本国内における教育業界のDX状況、DXで実現できること、DX推進事例などをみていきましょう。

DX事例

日本国内における教育業界のDX状況

まずは日本国内における教育業界のDX状況を明らかにしましょう。

2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、日本政府から緊急事態宣言が発令されました。この影響によって各分野におけるDX化が積極的に進められ、それに伴い教育業界においてもDXが推進されました。

しかし、ICT(情報通信技術)活用が進んでいた一部教育機関に至っては問題なくオンライン授業などに移行したものの、環境が整っていない多くの教育機関についてはDX化が不十分でした。つまり、教育機関ごとに充実度の相違が生まれてしまったのです。このことから、日本国内における教育のデジタル化は進んでいるとはいえません。

この問題に対し、文部科学省は学校と保護者の連絡手段をデジタル化し、ハンコのやり取りを見直す方針を全国の教育委員会に通知しました。ほかにも、ICT教育実現の取り組みである「GIGAスクール構想」を前倒しで進めるなど、文部科学省は教育分野のDX推進に注力しています。

世界と比較した教育業界のICT活用

日本国内の現状をもっと理解するためにも、世界各国のICT活用を比べていきましょう。

世界38ヵ国が加盟している「OECD(経済協力開発機構)」は、「PISA」といわれる国際的な学力調査を3年ごとに実施しています。この学力調査は、調査段階で15歳3ヶ月以上16歳2ヶ月以下の学校に通う生徒が対象であり、実施される内容は読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野です。

2018年に実施されたPISAの結果は2019年12月に発表されており、その学力調査のICT活用調査として「携帯電話、デスクトップ/タブレット型コンピュータ、スマートフォン、ゲーム機など、様々なデジタル機器の利用状況」について尋ねた項目があります。この調査によると、日本は学校の授業(国語・数学・理科)におけるデジタル機器の利用時間が短く、OECD加盟国のなかで最下位の結果でした。

また、ネット上でチャットやゲームを利用する生徒の割合が高い反面、コンピュータを使って宿題をする頻度はOECD加盟国で最下位でした。

この学力調査の結果からわかるように、日本は教育に対してICTを積極的に活用できていないほか、国内における教育業界のDX化が世界各国に比べて非常に後れています。

教育業界におけるDX推進2つの課題

日本国内における教育業界のDX状況は理解できたでしょうか?続いて、DX推進の課題について解説します。先ほどお話したとおり、日本国内における教育業界のDX化は思った以上に後れています。その原因となっている以下2つの課題を明確にしましょう。

インフラの整備不足

教育業界におけるDX推進の課題1つ目は、インフラの設備不足です。新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの学校でオンライン授業が実施されました。

しかし、世界各国に比べると普及率はまだまだ後れています。特にアメリカと中国では、登校できない期間に「オンライン授業があった」と回答した生徒は9割近くです。一方、日本の場合は15.5%でした。

アメリカや中国と大きな差が生まれてしまった原因の1つとして、インフラの設備不足が考えられています。オンライン授業を行うには下記のようなインフラ設備が必要です。

  • パソコン(タブレット)
  • 電子教科書
  • 電子黒板
  • インターネット環境

日本の教育業界ではこれらインフラ設備の用意が困難であったため、オンライン授業を普及できずにいました。

なお、パソコン(タブレット)とインターネット環境は保護者・生徒側が用意する必要があるものの、デジタル化への理解不足やデバイスの利用ルールが確立できていないことから、家庭でオンライン授業を受けられない生徒がいるのです。

指導側の知識不足

教育業界におけるDX推進の課題2つ目として、指導側の知識不足があげられます。オンライン授業を普及させなければならない現代において、アナログ思考を捨てきれていない教員が一部存在しています。

これは、文部科学省で行われた「教師に求められるICT活用指導力等の向上」による「教員のICT活用指導力チェックリスト」で明らかになっています。この調査によると、平成19年以降「授業中にICTを活用して指導する能力」などは向上がみられているものの、「児童・生徒のICT活用を指導する能力」に至ってはあまり向上していません。

以上のように教育業界のDX推進は、教員のICT活用指導力や知識不足が課題となっています。

教育業界のDXで実現できる3つのこと

ここまで、教育業界におけるDX推進の課題をお話しました。次に、その課題を乗り越えたあとに実現できることを3つ解説します。DXの素晴らしい部分を知って前向きに取り組んでいきましょう。

デジタル教材の新規開発

教育業界のDXで実現できること1つ目は、デジタル教材の新規開発です。従来のサービスと最新の技術をかけ合わせることで、良質なデジタル教材を開発できます。

例えば、リクルートマーケティングパートナーズが運営している「スタディサプリ」は、もともと予備校での講座をサブスクリプションとして配信していたサービスでした。講座数が増えてきたこともあり、従来のサービスとデジタル技術をかけ合わせたことで、スタディサプリという新しいデジタル教材を開発しました。

このように、教育業界のDXを実現するとデジタル教材の新規開発が行え、さらに便利なサービスが誕生するという魅力があります。

個別最適化の学習

教育業界でDXが推進すれば、個別最適化の学習が実現します。個別最適化の学習とは、生徒の能力や理解力に合わせて最適な学びを提供する学習方法のことです。

現代社会のおいては生徒が多様化したことにより、同じ学年でも個人の能力に一定の差が生まれてしまいます。そのような場合に全生徒に同じ授業を提供してしまうと、効率的な学習にはつながりません。

そこでDXを推進させることで、生徒1人ひとりに合わせた学習を実現できるようになり、より効率的な学習を行えます。これは「スタディ・ログ」と呼ばれる学習履歴のデータを活用することで実現可能です。さらに、AIを活用すれば個人別に学習履歴を分析し、より最適な学習を実施できるようになります。

このように、教育業界とDXのかけ合わせによる個別最適化の学習に期待が持たれています。

学習試験などのCBT化

教育業界におけるDXを推進することで、学習試験などのCBT化を実現できます。CBTとは、コンピューターを活用して試験や採点、判定などを自動的に行うシステムのことです。このCBTは海外発祥の試験モデルですが、1990年代から日本にも導入されました。受験者はマウス、キーボード、マイクを用いて解答します。

従来においては問題用紙やマークシートを用いた学習試験が一般的です。また、採点する際も用紙を回収して主に手作業で実施されます。一部自動化を図っているものの、まだまだ手作業による学習試験が残っています。

そこで、DXを推進させて学習試験などをCBT化することにより、コンピューター上で試験および採点、合否判定などの自動化を実施できます。それに伴い、データの一元管理、印刷費用の削減、採点の人的ミス防止といったことも可能です。

そのほか、教育現場にCBTを導入すれば教員に対する業務負担が軽減されるため、教材作りや研究といった別業務に時間を割くことができるでしょう。

教育業界におけるDX推進事例2つ

教育業界におけるDXの可能性は理解できたかと思います。では最後に、教育業界のDX推進事例を2つ紹介します。教育業界のDXをさらに理解できるはずです。

Facebook for Education

まず1つ目のDX推進事例として、「Facebook for Education」があげられます。このプログラムは、中等教育過程の学生と教育者向けにデジタルカリキュラムを配信するものであり、Facebookはインドの教育にかかわる政府機関(中央教育中央委員会)と提携して実現させました。

本プログラムでは、オンライン上の健全な活動や拡張現実(AR)などIT分野の教育を行い、これら教育をとおしてインターネットを安全に利用するための能力を培い、自らのメンタルヘルスを考えるスキル習得を目指しました。

また、プログラムは2つのフェーズに分けて実施されており、第1フェーズでは1万人以上の教師がトレーニングを受けています。そして、第2フェーズではトレーニングを受けた1万人以上の教師が3万人の生徒に対して指導をするというものです。

なお、このプログラムの開発により、新型コロナウイルス感染症の影響で学校閉鎖されたインドの生徒達に対し、高度な学習の機会を与えることに成功しました。

AIドリル

教育業界におけるDX推進事例2つ目は、タブレット端末などで学べる教材ソフト「AIドリル」です。このAIドリルは、2018年に東京都千代田区立麹町中学校で導入されており、生徒の学力向上を促進しました。

具体的には、AIドリルによって生徒の回答をAIが分析し、次に出題する問題を自動で組み立て、学習者1人ひとりに合った最適な学習を実現しました。また、採点すらも自動的に行うため、教員の業務負担が軽減されます。このようにAIドリルを導入したことで、生徒と教員の両方にメリットを生み出しました。

まとめ

本記事では、日本国内における教育業界のDX状況、DXで実現できること、DX推進事例などを解説しました。

2020年4月に発令された緊急事態宣言の影響を受け、教育業界におけるDX化は加速したかのように思われました。しかし、オンライン授業に移行できた教育機関は一部だけであり、多くの教育機関はデジタル技術を取り入れることが困難でした。

それら日本の教育業界のDX状況を踏まえ、本記事では課題や内容を解説しました。ぜひ本記事で解説した内容を参考にし、これから実現するDXのイメージをより明確にしましょう。

「What'sDX」編集部

執筆「What'sDX」編集部

これからDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組もうとしている、既に取り組んでいるみなさまのさまざまな「What’s DX?」の答えやヒントが見つかるサイト「What'sDX」の編集部です。